研究概要
文化財は人類の活動を示すかけがえのない遺産であり、非破壊を基本とする科学調査が行われてきました。しかし、文化財の表面状態は制作時の加工技術やその後の環境で大きく変化します。
たとえば、制作時に重ね塗りなどの多層構造や表面処理(表面改質)を用いることがあります。さらに伝世品では、長期間にわたって水分や大気、ガス、紫外線や可視光線などにさらされ、劣化や腐食などを生じます。出土遺物は埋蔵中に水分や土壌、微生物などの影響を受け、出土後には伝世品と同様の保管環境による影響を受け続けます。
文化財の特性や辿ってきた歴史(履歴)を知るには、資料の表面から内部に至る深さ方向の組成を詳細に解明することが必須です。しかし、従来の非破壊調査では表面付近の劣化層の影響を除くことはできず、資料の一部をサンプリングする手法を用いないと資料の実態を知ることが困難でした。
本計画研究では、文化財へ負ミュオンのエネルギーを調整することで任意の深さに負ミュオンを停止させ、そこで発生するミュオン特性エックス線を分析します。本手法では、文化財を非破壊で任意の資料内部の組成や成分の偏り、表面処理や多層構造などの定量分析が可能です。しかし、現状では調査に時間が必要なため、限られた点数しか調査できませでした。そのため、新規検出器を開発してシステムの最適化を図り、本手法に革新をもたらします。
本研究の目的は、本手法を腐食層や表面処理などのため内部組成の把握が難しい国内外の金属製品などの多様な文化財に応用し、資料内部の組成や表面処理の実態を明らかにすることです。その成果をもとに当時の生産技術を解明し、さらに世界各地・各時代における生産技術の変遷や伝播、あるいは独自性を比較することで、人類が築き上げてきた「技術の叡智」の解明へ貢献します。

研究組織
研究代表者
- 沓名 貴彦(国立科学博物館・グループ長):科学技術史・総括
・https://researchmap.jp/Takahiko_Kutsuna
研究分担者
- 奥山 誠義 (奈良県立橿原考古学研究所・研究員):文化財保存科学・国内資料
・https://researchmap.jp/_unebi-1_hz - 久保 謙哉 (国際基督教大学・特任教授):ミュオン化学・非破壊分析
・https://researchmap.jp/read0211453 - 末森 薫 (国立民族学博物館・准教授):文化財保存科学・海外資料
・https://researchmap.jp/k_suemori - 反保 元伸 (高エネルギー加速器研究機構・特別助教):ミュオン科学・非破壊分析/装置開発
・https://researchmap.jp/read0133845





研究協力者
- 市川 彰 (国立民族学博物館・准教授):考古学・海外資料
- 加藤 和歳 (九州歴史資料館・班長):文化財保存科学・国内資料
- 関口 かをり(日本銀行貨幣博物館・主任学芸員):歴史学・国内資料
- 田中 眞奈子(東京藝術大学・准教授):文化財保存科学・国内資料
- 比佐 陽一郎(奈良大学・教授):考古学・国内資料
- 人見 啓太朗(東北大学・教授):放射線計測学・装置開発
- 水野 敏典 (奈良県立橿原考古学研究所・センター長):考古学・国内資料








